― 12 件から 47 件へ。動画 1 本ずつが積み上げた「採用の構造的変化」を、数字とフレームから検証する。
§ 01 / Background ─ 「ポスターを貼っても、応募は来ない」
2026 年春、関西の運送会社 A 社の人事担当 K 氏は、ある朝の会議でこう切り出した。「来期は、Indeed 出稿を全額切ります」。
過去 18 ヶ月、A 社は月額 25 万円で Indeed の有料広告を運用していた。月間の応募数は 平均 12 件、面接到達は約 4 件、採用決定は月 0〜1 件。採用単価 (CPA) は 約 14 万円/採用。業界平均と比べてことさら悪い数字ではない。だが、業務側の人手不足はこの 1 年で目に見えて悪化していた。主力ドライバーが 1 人離職すると、周辺 3 名のシフトが破綻する。「Indeed が悪い」のではなく、応募の絶対数が需要に追いついていない ─ K 氏の診断はそうだった。
同じ月、A 社は当社に相談を寄せた。論点はひとつ。「採用『媒体』ではなく、採用『チャネル』を作り直したい」。
§ 02 / Why TikTok ─ 媒体ではなく「物語の場」
TikTok を採用に使うことに、A 社経営陣は懐疑的だった。「踊る若者の場」というステレオタイプが社内に強かった。だが、ここに 2 つの誤解がある。
第一に、TikTok のアクティブユーザーは 2026 年時点で日本国内 2,900 万人を超え、25〜44 歳の層が最大セグメント である。地方在住者の構成比は東京圏より高く、運送業・介護業・飲食業の現場ワーカーの主要メディアになりつつある。
第二に、求職活動の入口は 検索行動から「発見行動」にシフト している。「運送業 求人」で検索する人ではなく、TikTok のフィードを見ていて「この会社、面白そう」と思う人を捕まえるゲームに、採用は変わった。Indeed は前者を、TikTok は後者を取りに行く媒体である。これは競合ではなく 役割分担 だ。
A 社の判断は、Indeed をゼロにせず半額に圧縮し、浮いた予算で TikTok 運用を内製化することだった。
§ 03 / The Setup ─ 介入前の数字と運用設計
当社が A 社に対して提示した運用設計は次の通り:
| 項目 | 介入前 | 介入後 (3 ヶ月運用) |
|---|---|---|
| Indeed 月額予算 | ¥250,000 | ¥125,000 |
| TikTok 動画投稿数 | 0 | 月 12 本 (週 3 本) |
| 投稿コスト (動画 1 本) | ─ | ¥20,000-25,000 |
| 想定総支出/月 | ¥250,000 | ¥250,000 (横ばい) |
予算を増やしていない点が重要である。「TikTok を始めると別途コストがかかる」ではなく、既存の採用予算を再配分 しただけ。
動画の中身は 4 つの型を組み合わせた:
- ドライバーの 1 日密着 (現場のリアル)
- 配送ルート紹介 (土地感が伝わる)
- 社長 / 部長インタビュー (経営の本音)
- 募集要項の音声読み上げ + テロップ (情報伝達型)
撮影は社長の許可を得て就業時間内に行い、編集は当社が担当。「採用専用アカウント」ではなく、会社の Owned Media として位置づけ、求人広告色を意図的に薄めた。
§ 04 / 3 Months Timeline ─ 月次の推移
3 ヶ月の運用結果を、月次で並べる。
Month 01: 12 本投稿。総再生数 780。応募 8 件。Indeed 経由が 9 件で合計 17 件。介入前 (12 件) より微増。経営陣は「効果が出てない」と懸念。
Month 02: 12 本投稿。総再生数 1,380 (前月比 約 1.8 倍)。1 本がアルゴリズムに乗り、フォロワーが 38 → 612 に急増。応募 24 件のうち TikTok 経由 19 件。応募の質に変化 ─ 「動画で見た会社で働きたい」と志望動機を書く応募者が現れ始める。面接到達率が 33% → 58% に上昇。
Month 03: 12 本投稿。総再生数 2,580。応募 47 件、うち TikTok 経由 38 件。Indeed 経由 9 件。採用決定 4 件 (うち 3 件は TikTok 経由応募)。CPA は介入前 ¥139,000 → ¥62,500 に低下 (約 -55%)。20 代応募者の比率は 10% → 48% に変化。
3 ヶ月後の K 氏の言葉は、こうだった。「これは媒体購入じゃない。会社が、街に向かって話しかけている」。
§ 05 / 4 つの構造的変化
数字の裏で何が起きていたか。当社が他の運用案件 (現在 30 社) でも観察している共通パターンは 4 つある。
(1) 応募の「動機」が反転する
媒体応募は「条件が合うから応募する」(賃金・休日・距離)。TikTok 経由応募は「働き方が見えたから応募する」(雰囲気・人・現場)。動機の質が変わると、入社後の定着率が変わる。A 社の 3 ヶ月後の早期離職率は、過去 12 ヶ月平均の 24% に対し、9% (n=4) だった。サンプル数は小さいが、構造を示唆する。
(2) 「断る応募者」が増える
応募が増えると、企業側が選別できるようになる。Month 03 の A 社では、47 件の応募のうち 書類段階で 11 件を辞退 している。介入前は「来てくれた人をなんとか繋ぎ止める」モードだったのが、「最適な人を選ぶ」モードに変わった。採用は「集める」から「選ぶ」に戻る。
(3) 求人原稿の役割が変わる
TikTok を起点に応募する人は、企業の動画を 3〜5 本見たうえで応募してくる。求人原稿に書かれた「アットホームな職場」「やりがい」のような抽象語は、もはや決定材料ではない。原稿は「動画で語りきれなかった事務情報」を簡潔に書く場 に縮退する。Indeed 原稿の文字数を 40% 削減しても応募率は変わらなかった。
(4) 動画は資産として残り続ける
Indeed 出稿は出稿期間が終われば露出ゼロになる。TikTok の動画は 出稿後 6 ヶ月、1 年と再生され続ける。Month 03 時点で A 社の累計再生数 4,750 のうち、約 14% は Month 01 投稿の動画だった。広告費がストックされる、と言い換えてもよい。
§ 06 / Limitations ─ TikTok 採用が向かないケース
ここまでの実例で誤読してほしくないことが 3 つある。
第一に、TikTok 採用は「即効性」のチャネルではない。Month 01 のリターンは媒体購入より弱い。3 ヶ月の助走を許せる企業 (= 経営判断の時間軸が四半期以上) でないと、途中で撤退する。「来月までに 5 人採りたい」という案件には不向きである。
第二に、全業界が同じ伸び方をするわけではない。運送・介護・飲食・小売など、現場ワーカー職は TikTok 採用が効きやすい。一方で、経験者の中途採用 (エンジニア・士業・専門職) は LinkedIn や Wantedly、X (旧 Twitter) の方が ROI が高い。媒体選定は職種次第である。
第三に、動画の質が一定ラインを越えていないと、再生されない。「とりあえず撮ってみた」レベルの動画は、TikTok のアルゴリズムによって埋もれる。当社が運用代行する理由はここにあるが、内製で運用する場合も、最低限の編集スキル (テロップ・カット・音声バランス) は必須である。
§ 07 / Closing ─ 採用は媒体ではなく、文化の出力である
A 社の事例から導かれる原則は、ひとつである。
採用は、媒体を変えても解決しない。会社が「自分たちは何者か」を語り続けることでしか、応募者は集まらない。
Indeed は「条件で選ばれる場」、TikTok は「物語で選ばれる場」。条件で選ばれる採用は、より良い条件の他社が現れた瞬間に瓦解する。物語で選ばれる採用は、語り続ける限り、再現性を持つ。
中小企業の経営者にとって、「物語を語り続ける」は重い。だが、3 ヶ月のリードタイムを許容できるなら、ストック型の応募チャネル を構築できる選択肢が、今、初めて開いている。
A 社の K 氏は、最近こんな話をしていた。「Indeed を切らなかったのは、両輪で動かす方が安全だから。でも、来期は TikTok の本数をもう一段上げる」。
採用は、選択肢の連続である。今期のどこかで、媒体購入から物語制作へ予算を 10% シフトしてみる ─ その 1 回の判断が、3 ヶ月後の応募数を変えるかもしれない。
本記事の数値は実在の運用案件を匿名化・抽象化した集約値で、複数案件の傾向を代表する例示として記述しています。個別案件の数値は背景条件 (業界・地域・既存採用基盤) によって変動します。
関連サービス: TikTok 採用支援 / Indeed 広告運用 / 料金プラン
